ひとりの部屋
オレンジが真っ白に変わった日から数十日、透明になる。
***
憂鬱だった。
「退屈」
「僕も」
憂鬱と退屈が並行してわたしのからだを満たしているのは多分、どちらも「つ」で終わるためになんとなく同意義と捉えているからだ。
ついこの間まで狭かったはずの真新しい部屋に、冷めた陽射しが滲む。
今日がなにを意味しているのかわからないふりをして、せっかく取った有給を朝目覚めてからいまに至るまで、ベッドの上で暇を持て余すという無意味なことに費やしていた。
壁に掛けてある黒の正装とカレンダーに書き込んだ今日の日程、何度もかかってきた電話や留守電に入っている伝言が、頭にちらついては跡が残るくらいシーツを握りしめた。
わたしは、今日家から出る予定はない。正確にはなくなった。もっと正確に言えばないことにした。なんにせよ、今さらのこと。
「遊ぼうよ」
じきに、五時を告げる童謡が流れるはずだ。耳をそばだて外を見る、気にはなれなかったので代わりになにか温かい飲み物を淹れようと思い立った。
「僕ホットミルクがいい」
スプリングを一度音立てベッドから降りる。素足にフローリングの冷たさが移って気付いた、そういえば暖房もつけていない。テーブルに無造作に置かれたリモコンをエアコンへ向けて操作すると、電子機器特有の音を鳴らしてあたたかい空気が部屋に注がれ始めた。それを確認したところで足早にキッチンへ向かい冷蔵庫を開ける。しかし飲み物や調味料を入れる扉棚にはあいにくトマトジュースしかなかった。牛乳を切らしている。
「ミルクティーが良かったのに……」
冷蔵庫を名残惜し気に閉じて落胆のため息を吐くと、また呟いてみせた。
「……憂鬱……」
「ごめんね、バイバイ」
彼はもう、ここへ帰って来ない。
おわり