血流
友だちの宮子ちゃんに久しぶりに会った。わたしの「久しぶり」とは二日会わない程度で発動する。今回も例に違わず、宮子ちゃんとは一般的には全然久しくない三日ぶりの再会だった。
「なんか、久しぶりだね」
小声で囁いた理由は、ここが学校付属の図書館であるからだ。宮子ちゃんはよく、ここで課題制作や読書をしているらしい。彼女の情報量は並々ではないだろう。そんな知識に溢れた彼女と言葉を交わすのはジンジャーエールが喉を通りすぎるときほどの刺激があって、わたしは細やかながら楽しくてうれしくなる。
「そうだね、はーちゃんとは授業あまり被らないもんね」
「うん」
つめたい外気を纏ってあたたかな図書館に足を踏み入れたわたしのからだは、階段を登って宮子ちゃんに会うまでの間でほんのりと温度を上げた。収縮していた足先の血管が広がり、ばあ! と血液が勢いよくからだを巡っているのがわかる、気がした。あったかい。
それはそうと、宮子ちゃんの机上が多量の消しカスと本の山とですごいことになっているではないか。まるで、災害後だ。その被災地からちらつく映画雑誌が親近感を生む。今度、一緒に観に行きたいな。だめだ、わたしは映画はひとりで観たい。きっと、宮子ちゃんも。
「はーちゃんめずらしいね」
「ここにいるのが」と付け足されるべき文章に対し、わたしは素早く対応する。
「うん。絵本でも読もうかなーって」
わたしはいつもならここに来ない。来ようとも思案しない。
「そっか」と、いたずらっぽく笑って宮子ちゃんはわたしを見た。
「なんか……お腹痛くてさ」
苦笑する宮子ちゃんにわたしは、「生理?」 と、やらしい顔で言った。
「まあね」
続けて宮子ちゃんは「出血大サービス中よ」とおどけてみせた。そこで、何人かこっちを見たことに彼女は気付いているのかいないのか。
聡明だからって清純なわけじゃない。「女の子の日なの」などと「の」を三回も使う台詞が宮子ちゃんの口から飛び出さなくて良かったと心底思う。
「そうかあ。何日目? わたし痛くないタイプだからなあ」
「え! いいなあ……。いま二日目でいちばん痛いときだよー」
「わかってあげられないのがね、辛いけど……ってなんか、こんな話してたらもよおしちゃった。トイレ行ってくるね」
「うん」
わたしはさりげなく彼女の近く、席をふたつ空けた場所をかばんで陣取り足早にトイレへ向かった。おしっこおしっこ。
「あ」
ナプキン忘れた。
「あ」
そうか、そうだ。わたし、生理だったよ。それも二日目。忘れるほど、わたしに害を及ばさない女性みなが背負う宿命。忘れさせてくれないほど、宮子ちゃんに刃を向く同じ、それ。
わたしが今日寒さと一緒にここへ連れてきたのは、どうでもいいくだらない甘えだったのだと気付いた。
おわり