しずく   なにかあったひと




 あくまでわたしはなにも知らないなんて言って欲しくなかった。たとえ、もう忘れてとわたしが口走った過去があったとしてもだ。それがわたしのわがままであることは重々承知した上で言っている。
 わたしは六ピース入ったフライドチキンを三つほお張ったところで指をしゃぶった。休憩だ。もともと大食いでないわたしに油物を数人前など無理に決まっていた。だからこそわたしは家で家族が待っている体でファーストフード店に寄った。それから、スーパーでスナック菓子とケーキと大量のお酒を買った。気持ち悪くなるまで食べたなら、やってきた嘔吐感に身を任せてしまおうと、そう思った。わたしは四つ目を手にする前に手を口に押しやってトイレへ駆け込む。指を突っ込むまでもなく、さっきまでわたしの贅肉になろうとしていた鶏を便器に流し入れた。考えれば今日は一日なにも食べていなかった。さすがに小食だからと言ってこの程度で吐くわたしではない。きっと胃も驚いたのだろう。久しぶりの食事が油の衣まみれの鶏だったのだから。
 はあ、と侵入者を出すだけ出して、ひとつ、息をこぼしてゆらりと立ち上がる。レバーを引いて流れてゆく嘔吐物を見送ってから洗面台へ向かった。蛇口をひねってうがいをするとやっと気持ちがスッとした。顔を見上げると涙に濡れた自分の顔が写っていた。その涙は生理的なものだと知っている。わたしは顔を拭かないままに口だけタオルで押さえ、寝床に就いた。
 わたしが、泣いたのは嘔吐したせいだ。


おわり





また掘り出してきました。
これ以上なにも続きが書けそうにないし、
もったいないので・・・(笑)