しずく   運命のひと



 見知らぬ女がわたしの肩に頭を乗せてきた。たったいまではない。しばらく前からだ。いまになって頭の重量感が骨に響いてきた。
 わたしは次の駅で降りる予定、だった。が、わたしはこの女が起きるまで環状線に乗り続けていようと決めた。あしたは休みだし、今日もこれから特筆してやらねばならない用事もない。
 しまった。くしゃみをしてしまった、からだを動かさないように、寄りかかる女の顔を目だけで覗く。起きそうにない。安堵した。
 ついでだから、女の顔を分析してみる。特に、なんの変哲もない日本女性といった感じだ。
 空調が効いた車内は、女に肩を貸す苦行に耐えるわたしを気遣ってくれているのだろうか。それに金曜の夜だとゆうのに、乗客はまばらだ。これはなにか、誰かの陰謀か。
 そういえばしばらく恋人とゆう存在とは無縁だ。そう思うと突然女に対する感情が変化した。
 彼女はまだ起きない。見える谷間にわたしは起きる。乗客はじいさんひとりになった。わたしは、右手を彼女のもとにゆっくりと発車させた。
 電車を急停止させたような悲鳴が鳴り響く。直後、じいさんが席から崩れ落ちる。
 彼女は夏の夜、殺人者となった。わたしは共犯者、そして彼女を支えるパートナーとなった。
「おじいさんが倒れて、彼女は悲鳴をあげました。わたしも突然のことで……。おじいさんのご冥福をお祈りいたします」


おわり